暑さに負けない!腸から整える夏の習慣|世界の発酵飲料10選|各国の伝統ドリンクと歴史

夏の暑さが厳しくなると、体が重く感じたり、食欲が落ちたり、なんとなく疲れが抜けにくくなったりします。そんな季節を乗り切るために、世界の人々は古くから“発酵”という知恵を活かしてきました。発酵によって生まれる酸味や微炭酸、そして腸を整える微生物の力は、暑さで弱りやすい体を支え、涼しさをもたらしてくれます。

本記事では、コンブチャ、ケフィア、水キムチの汁、テパチェ、クワス、甘酒をはじめ、インドのラッシーやトルコのエアラン、エチオピアのテジなど、世界各地に根付く発酵飲料を巡ります。それぞれの飲み物には、気候や歴史が生み出した“夏を乗り切るための知恵”が詰まっています。腸から涼しくなるという発想を、世界の伝統とともに味わってみてください。

【1】コンブチャ(中国東北部〜ロシア・東欧)

「コンブチャ」と聞くと、日本では昆布茶を思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし、海外で親しまれている Kombucha は昆布茶とはまったく別の飲み物です。

コンブチャは、甘い紅茶や緑茶に酵母と酢酸菌が共生する菌体(SCOBY)を加えて発酵させる飲料で、爽やかな酸味と微炭酸が特徴です。

その起源はハッキリしていませんが、中国東北部(旧満州)を中心とする地域で生まれ、それがロシア極東や東欧へ広まったという説が広く知られています。19〜20世紀にはロシア、ウクライナ、ポーランド、ドイツなどで家庭の発酵飲料として定着し、SCOBYを近所や親族同士で分け合いながら受け継ぐ文化が育まれました。

興味深いのは、各国で「お茶のキノコ」を意味する名前で呼ばれてきたことです。ロシアでは「Чайный гриб(チャイヌイ・グリブ)」、ポーランドでは「Grzybek herbaciany(グジベク・ヘルバチャニ)」、ドイツでは「Teepilz(テーピルツ)」などと呼ばれます。これは、発酵中に表面へ形成されるゼリー状の菌膜がキノコのように見えることに由来しています。

ロシアや東欧では、コンブチャは季節を問わず家庭で楽しまれてきました。発酵飲料は古くから健康的な食品と考えられており、コンブチャも日常的に飲まれる存在でした。特に夏には、爽やかな酸味と微炭酸が喉の渇きを癒やす飲み物として親しまれていました。

20世紀後半になると西ヨーロッパや北米にも広がり、21世紀には健康志向の高まりとともに世界的な人気を獲得します。現在ではフルーツやハーブを加えた多彩なアレンジも登場し、伝統的な発酵飲料としてだけでなく、現代的なライフスタイル飲料としても楽しまれています。

🔽【動画】コンブチャの作り方

<1-1> コンブチャの発酵のしくみ

コンブチャは、 酵母によるアルコール発酵 → 酢酸菌による酢酸発酵 という二段階の発酵によって作られます。

  1. 甘いお茶にSCOBYを加える
  2. 酵母が糖を分解し、微量のアルコールと二酸化炭素(微炭酸)を生む
  3. 酢酸菌がアルコールを酢酸に変え、爽やかな酸味が生まれる
  4. 発酵が進むと表面に新しいSCOBY(菌膜)が形成される

この独特の発酵プロセスが、コンブチャ特有の風味と微炭酸を生み出しています。

【2】 ケフィア(コーカサス地方)

黒海とカスピ海にはさまれたコーカサス地方は、古くから羊や山羊、牛を飼う牧畜文化が栄えた地域です。この地で何世紀にもわたって受け継がれてきた発酵乳がケフィアです。

ケフィアの歴史は少なくとも数世紀にわたりコーカサス地方で受け継がれてきた、あるいはそれ以上前にさかのぼると考えられています。遊牧民たちは搾りたての乳を革袋に入れて持ち運び、その中で乳酸菌や酵母が自然に働くことで、爽やかな酸味とほのかな発泡感をもつ発酵飲料が生まれました。発酵の種となる「ケフィアグレイン」は家族の財産として大切に受け継がれ、長く門外不出とされていたほどです。

ケフィアが広く飲まれていたのは、現在のロシア南部やジョージア、北オセチア、カバルダ・バルカルなどコーカサス山脈周辺の地域。特に牧畜が盛んな山岳地帯では、乳を無駄なく保存する知恵として欠かせない存在でした。

夏になると高原の牧草地へ家畜を移動させる季節が訪れます。気温が上がると生乳は傷みやすくなりますが、発酵させることで保存性が高まり、持ち運びもしやすくなります。さらに、暑さで食欲が落ちる時期でも飲みやすく、乳由来の栄養を効率よく摂取できるため、牧畜民たちの貴重な栄養源となっていました。

コーカサス地方はしばしば「長寿の里」として紹介され、その食文化の一つとしてケフィアが注目されることがあります。ただし、長寿の理由がケフィアだけにあるわけではなく、豊かな自然環境や日々の運動量、伝統的な食生活など、さまざまな要素が関係していると考えられています。

現代では世界各地で親しまれる発酵飲料となったケフィア。その一杯には、険しい山々の暮らしの中で培われた保存の知恵と、夏を健やかに乗り切るための牧畜民の工夫が息づいています。

🔽【動画】自家製ケフィアの作り方!

【3】 クワス(ロシア・東欧)

クワスは、ライ麦パンや麦芽を発酵させて作る、ロシアや東欧を代表する伝統的な発酵ドリンクです。その歴史は非常に古く、10世紀頃のルーシ(中世東スラヴ)の文献にも登場するほど。修道院や農村の家庭で日常的に作られ、地域ごと・家ごとにレシピが受け継がれてきました。

特徴的なのは、材料の素朴さと発酵の奥深さ。黒パンを水に浸し、酵母や乳酸菌の働きで自然に発酵させることで、ほのかな酸味とやさしい甘み、そして微炭酸が生まれます。一般的には1%未満の低アルコールで、国によっては“ノンアルコール飲料”として扱われることもあります。

また、クワスは地域によって驚くほどバリエーションが豊富です。

  • ミントやレーズンを加えて香りを楽しむタイプ
  • ビーツで色鮮やかに仕上げるウクライナ風
  • 麦芽を多く使い、コクを強めたロシア風

など、土地の食文化と結びつきながら多様に発展してきました。

では、なぜクワスは夏の飲み物として愛されてきたのでしょうか。

ロシアや東欧の夏は短いものの、農作業が最も忙しく、強い日差しのもとで長時間働く季節です。冷やしたクワスは、乳酸発酵由来の爽やかな酸味と軽い炭酸が心地よく、汗をかいた体にすっと染みわたる飲み物でした。乳酸発酵によって生まれる有機酸や微量のビタミンが含まれることから、疲労回復や整腸に良いとされ、農民たちの体を支える日常的な栄養補給源でもあったのです。

19〜20世紀(ソ連時代)には、街角に黄色いタンクを積んだクワス販売車が登場し、夏の風物詩として親しまれました。現在でもペットボトル飲料として広く売られ、家庭でも作られるなど、ロシアや東欧の人々にとっては“夏の記憶”を呼び起こす懐かしい味です。

素朴な材料から生まれる深い味わいと、暑い季節の暮らしを支えてきた歴史。クワスは今もなお、東欧の食卓や夏の風景に欠かせない、生活に根ざした発酵ドリンクなのです。

🔽【動画】自家製クワス

【4】水キムチの汁(韓国)

水キムチ(ムルキムチ)は、韓国の食卓に古くから根づく発酵食品で、特に夏に欠かせない存在です。野菜を塩や香辛料とともに漬け込み、乳酸菌の働きで自然発酵させることで、透明感のある爽やかな漬け汁が生まれます。この漬け汁こそが、韓国で“飲むキムチ”とも呼ばれ、親しまれてきた夏の伝統ドリンクです。

その歴史は古く、朝鮮王朝時代の料理書にも水キムチの記述が見られます。暑さで食欲が落ちやすい季節には、辛味の強い赤いキムチよりも、酸味が穏やかでさっぱりとした水キムチが重宝されました。特に大根の「トンチミ」や、きゅうりを使った「オイムルキムチ」は、夏の家庭料理の定番として今も愛されています。

水キムチの魅力は、発酵によって生まれる自然な酸味と、野菜の甘みが溶け込んだ澄んだ味わい。冷やした汁は暑い季節に心地よく、食欲が落ちやすい時期にも親しまれてきました。乳酸発酵による酸味や風味が特徴で、古くから体に良い食品として親しまれてきました。

地域によって材料や味付けが異なるのも水キムチの魅力です。全羅道では梨やリンゴなどの果物を加えて甘みを引き出すものが多く、北部地域では塩分や辛味を控えた澄んだ味わいのものが親しまれてきました。また、地域ごとに旬の野菜や土地の食材を活かした多様なレシピが受け継がれています。

現代の韓国でも、水キムチは家庭料理の定番であり、焼肉店や食堂でも食事の最初に提供されることが多い“体を整える一杯”。暑い夏の日に冷蔵庫から取り出して飲むその味は、韓国の人々にとって季節の記憶と結びついた、どこか懐かしい存在です。

発酵の知恵と夏の暮らしが育んだ水キムチの汁は、まさに韓国ならではの“飲む発酵食”。暑さに負けない体づくりを支えてきた、伝統の知恵が息づいています。

🔽【動画】若大根の葉のキムチ

名称韓国語特徴
水キムチ물김치総称
トンチミ동치미大根中心
オイムルキムチ오이물김치きゅうり中心
ナバクキムチ나박김치大根と白菜
ヨルムムルキムチ열무물김치若大根の葉

【5】 ラッシー(インド)

インド北部の夏は、気温40℃超えが当たり前という過酷な環境。強烈な日差しと乾いた熱風のなかで暮らす人々にとって、体を内側から整え、暑さに負けないための知恵が欠かせません。その代表が、古くから親しまれてきた発酵ヨーグルトドリンク「ラッシー」です。

ラッシーは、文化が古くから根づくインド亜大陸で生まれた伝統的なヨーグルトドリンクです。伝統医学アーユルヴェーダの文献にも、ヨーグルト(ダヒ)を水で薄め、体調に合わせて塩やスパイスを加えて飲む方法が記されており、ラッシーは“消化を助け、体を整える飲み物”として位置づけられてきました。

基本はヨーグルトを水でのばし、塩や砂糖、スパイスを加えたシンプルなものですが、地域や家庭によって味わいは多彩です。

  • 塩味の「ソルティーラッシー」
  • マンゴーなど果物を加えた甘いラッシー
  • クミンやカルダモンを加えたスパイスラッシー

など、暑さや体調に合わせて飲み分けられてきました。

ラッシーが夏に親しまれてきた理由の一つは、発酵乳(ヨーグルト)ならではのさっぱりとした飲み心地にあります。発酵によって生まれる乳酸菌が腸内環境をサポートし、暑さで弱りがちな消化機能を助けてくれると考えられてきました。さらに、ヨーグルトのたんぱく質やミネラル、適度な塩分が汗で失われた栄養を補い、冷たいラッシーは火照った体を内側からクールダウンしてくれます。

北インドやパンジャーブ地方では、農作業の合間にも飲まれてきました。現代でも食堂や屋台、家庭の食卓で広く親しまれ、インドの夏を象徴する飲み物として愛されています。

酷暑の国が育んだラッシーは、単なる甘いヨーグルトドリンクではなく、発酵の力で腸を整え、暑さに負けない体づくりを支えてきた知恵の結晶。まさに「腸から整える夏の習慣」を体現する伝統ドリンクです。

※似た発酵ヨーグルトドリンクとして、トルコや中東には塩味の「エアラン」があります。

🔽【動画】ラッシーのレシピ

【6】 エアラン(トルコ〜中東)

エアランは、ヨーグルトに水と塩を加えて作るシンプルな乳飲料。トルコを中心に、中東・コーカサス・中央アジアへと広がる広大な地域で、何世紀にもわたり飲まれてきました。その背景には、乾燥した気候と遊牧文化という、この地域ならではの暮らしがあります。

もともと遊牧民たちは、家畜の乳を発酵させて保存性を高め、移動生活のなかで活用してきました。水で薄めたヨーグルトに塩を加えることで、暑い気候でも飲みやすい発酵飲料として親しまれてきました。トルコでは今も国民的飲料として愛され、家庭料理からレストラン、街角のケバブ屋まで、どこでも出会える存在です。

エアランの魅力は、発酵由来の爽やかな酸味と、ほんのり効いた塩味。汗をかいた体にすっと染みわたり、乾いた喉を潤してくれます。さらに、ヨーグルトに含まれる乳酸菌が腸内環境をサポートし、暑さで弱りがちな消化機能を整えてくれるとされます。脂の多い肉料理との相性が良いのも、胃腸の負担を軽くする役割があったからです。

地域によっては、泡立ててクリーミーに仕上げるもの、ミントを加えて清涼感を高めるものなど、バリエーションも豊富。砂漠や草原を移動してきた人々の知恵が、現代の食文化のなかにも息づいています。

※インドのラッシーが甘味やスパイスを楽しむ飲み物であるのに対し、エアランは塩味を主体とした食事向けの飲み物です。

🔽【動画】エアランのレシピ

<6-1> 「エアラン」と「ラッシー」の違い

エアランとラッシーは似ているようで、実は目的も味わいも対照的。

● エアラン(トルコ〜中東)

  • 塩味のみ
  • 食事と一緒に飲む
  • 肉料理との相性が良い
  • 目的:補水・ミネラル補給・胃腸を軽くする

● ラッシー(インド)

  • 甘味または塩味
  • デザート感覚でも飲まれる
  • スパイスや果物でバリエーション豊富
  • 目的:腸を整え、体調ケア

【7】 テパチェ(メキシコ)

テパチェは、メキシコで古くから親しまれてきた微発酵ドリンク。テパチェの起源は先スペイン期にさかのぼると考えられており、当時はトウモロコシを原料とした発酵飲料だったとされます。現在はパイナップルの皮と果肉、黒糖(ピロンシージョ)を発酵させて作るのが一般的です。暑く乾いた気候のなかで、果物を無駄なく活用しながら保存性を高めるために生まれた、先住民の知恵が息づく飲み物です。

発酵によって生まれるほのかな酸味と自然な微炭酸が特徴で、甘酸っぱく爽やかな味わいはまさに“夏のご褒美”。屋台や市場では、大きなガラス容器にたっぷり仕込まれたテパチェが冷やされ、暑い日のおやつや水分補給として親しまれています。特に中部〜南部の温暖な地域で根強い人気がありますが、近年はクラフト発酵飲料としてメキシコ全土に広がり、都市部でも専門店が登場するほどです。

テパチェが夏に愛される理由は、その飲みやすさだけではありません。 パイナップルの酵素や発酵由来の乳酸菌が、暑さで弱りがちな消化機能を整えてくれると考えられてきました。汗をかいたあとに飲むと、果物の自然な糖分と有機酸が体にすっと染みわたり、軽い疲労回復にも役立つ“軽い発泡感をもつ伝統的な発酵飲料”として重宝されてきたのです。

また、テパチェは家庭ごとにレシピが異なり、 ・シナモンやクローブを加えて香りをつける ・マンゴーやリンゴなど他の果物を一緒に発酵させる ・発酵期間を調整して酸味や炭酸の強さを変える など、地域性と家庭の味が色濃く反映されるのも魅力です。

強い日差しの下で汗をかいたあとに飲む、甘酸っぱく爽快な一杯。 テパチェは、太陽の国メキシコが育んだ“腸から整える夏の発酵ソーダ”であり、暑さに負けない体づくりを支えてきた伝統の知恵なのです。

🔽【動画】自家製テパチェ

【8】 カシリ(アマゾン流域)

カシリは、アマゾン流域の先住民族が何世代にもわたって受け継いできた伝統的な発酵飲料です。主にキャッサバ(マニオク)を原料とし、地域や民族によって製法は異なるものの、どれも熱帯雨林の暮らしと深く結びついています。

アマゾンの高温多湿な環境では、キャッサバは主食として欠かせない作物です。収穫したキャッサバを保存し、消化しやすくするために発酵の知恵が活用され、その中からカシリの文化が育まれました。発酵によって生まれるほのかな酸味や独特の香りは、土地の微生物と人々の暮らしが織りなす“アマゾンの味”といえます。

カシリは、共同体の中心にある大切な存在です。 収穫の祝い、共同作業の後の団らん、儀式や祭礼、家族や村のつながりを確かめる場など、さまざまな場面で振る舞われます。カシリを分け合うことは、「同じ共同体の一員である」という象徴的な意味を持ち、人々の絆を確かめる行為でもあります。

また、発酵によって保存性が高まり、栄養の吸収も良くなるため、日々の暮らしを支える重要な食文化でもあります。アマゾンの人々にとって、カシリは“腸を整える飲み物”というより、食と健康、そして共同体をつなぐ発酵文化そのものです。

世界最大の熱帯雨林で育まれたカシリは、自然と共に生きる知恵と、人と人を結びつける力を今に伝える貴重な文化遺産です。それは、単なる飲料を超えた「アマゾンの暮らしの記憶」を体現する一杯なのです。

【9】 甘酒(日本)

甘酒は、日本で千年以上にわたり親しまれてきた伝統的な発酵飲料です。奈良時代の文献にも登場し、江戸時代には庶民の間で広く飲まれるようになりました。現代では冬の飲み物という印象がありますが、実は江戸の町では夏の風物詩として知られ、「甘酒売り」が街を歩くほど人気がありました。

甘酒には大きく分けて二つの種類があります。米こうじから作る「麹甘酒(ノンアルコール)」と、酒粕を溶いて作る「酒粕甘酒(微量のアルコール)」です。特に麹甘酒は、こうじ菌の酵素が米のでんぷんを糖へと分解することで生まれる自然な甘みが特徴で、砂糖を加えなくてもやさしい甘さを楽しむことができます。

暑い季節に甘酒が親しまれてきた理由は、その飲みやすさにあります。食欲が落ちやすい夏でも手軽にエネルギーを補給できることから、江戸時代には庶民の栄養源として重宝されていました。現在でも「飲む点滴」と呼ばれることがありますが、これは豊富な栄養成分を含むことに由来する愛称です。

地域によっても楽しみ方はさまざまです。冷やして飲む夏の甘酒、温めて飲む冬の甘酒のほか、生姜を加えたり、近年ではフルーツや豆乳と組み合わせたりするアレンジも人気です。

甘酒は、米とこうじという日本の発酵文化を象徴する飲み物。夏を健やかに過ごすための知恵として、今も多くの人々に親しまれています。

🔽【動画】自家製カシリ

【10】 テジ(エチオピア)

テジは、エチオピアで古くから親しまれてきた伝統的な蜂蜜酒です。蜂蜜と水を発酵させ、さらにゲショ(Rhamnus prinoides)という植物を加えて独特の風味を生み出します。その味わいは甘さの中にほのかな苦味や酸味が感じられ、地域や家庭によって個性が大きく異なります。

エチオピアは標高の高い地域が多く、古くから養蜂文化が発達してきました。豊富な蜂蜜を活用する中でテジが発展し、祝い事や結婚式、祭りなど人々が集まる場に欠かせない飲み物となりました。現在でも「テジベット(蜂蜜酒専門店)」で提供されるなど、日常生活に深く根づいています。

テジの魅力は、発酵によって生まれる複雑な香りと味わいにあります。甘口のものから辛口に近いものまで幅広く、熟成期間によっても風味が変化します。地域によってはスパイスやハーブを加えることもあり、多様なスタイルが存在します。

エチオピアの人々にとってテジは単なる酒ではなく、人と人とのつながりや祝福を象徴する文化的な飲み物です。その一杯には、高原の自然と長い歴史の中で育まれた発酵の知恵が息づいています。

🔽【動画】自家製レジのレシピ

まとめ

世界の発酵飲料をたどると、そこには単なる飲み物を超えた「暮らしの知恵」が見えてきます。

中国東北部からロシア・東欧へ広がったコンブチャ、コーカサスの山々で受け継がれてきたケフィア、東欧の農村を支えたクワス、韓国の水キムチ、インドのラッシー、トルコのエアラン、メキシコのテパチェ、アマゾンのカシリ、そして日本の甘酒やエチオピアのデジ。それぞれ原料も製法も異なりますが、どれもその土地の気候や食文化、人々の暮らしの中から生まれてきました。

暑さの厳しい地域では爽やかな酸味や発泡感が好まれ、牧畜文化の地域では発酵乳が発展し、米や穀物を主食とする地域では発酵米飲料が受け継がれてきました。発酵飲料は、気候への適応や保存の工夫、そして人々の交流を支える文化として、世界各地で独自の発展を遂げてきたのです。

同じ「発酵飲料」といっても、その味わいは実にさまざまです。発酵したお茶、乳、穀物、野菜、果物、米、蜂蜜──原料が変われば風味も文化も変わります。

今年の夏は、世界の発酵飲料をひとつ試しながら、その土地の歴史や暮らしにも思いを巡らせてみてはいかがでしょうか。グラスの中には、何世代にもわたって受け継がれてきた発酵の知恵が息づいています。

飲料簡潔なまとめ
コンブチャ発酵したお茶(爽やかな酸味と微炭酸)
ケフィア発酵した乳(ヨーグルトより飲みやすい酸味)
クワス発酵した穀物(パン由来の香ばしさとやさしい酸味)
水キムチ発酵した野菜の汁(すっきりした酸味)
ラッシー発酵乳(ヨーグルト)を水で割った飲み物(まろやかな酸味と甘み)
エアラン発酵乳(ヨーグルト)を水と塩で割った飲み物(酸味と塩味)
テパチェ発酵した果物(甘酸っぱく軽い炭酸)
カシリ発酵した主食作物(とうもろこしなどの軽い酸味)
甘酒発酵した米の自然な甘み
テジ発酵した蜂蜜の酒(甘みと複雑な香り)

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