【第1章】サウナは流行を超え、文化へ──2025年トレンドの先に見える「薬草サウナ」の深化
ここ数年、世界的に続いてきたサウナブーム。
「そろそろ落ち着くのでは?」という声が聞こえる一方で、2025年のウェルネス業界では、サウナは単なる流行ではなく主要トレンドの一つとして明確に位置づけられる存在となりました。
ただし、その中身は大きく変化しています。
汗をかいて整うだけのサウナから、『自然・植物・伝統文化と結びついた “体験型ウェルネス” 』へ。
その象徴が「薬草×サウナ」です。
化学的に調合された香りではなく、
その土地に自生するハーブや樹木の葉を使い、
香り・蒸気・温熱を通して心身を整える。
こうしたスタイルは、フィンランドやロシアをはじめとする寒冷地域のサウナ文化に古くから根付いてきました。
年末を迎えた今、「2026年のウェルネストレンド」はまだ正式には提示されていません。
しかし、2025年トレンドとして語られてきたサウナの進化は勢いを失うどころか、次のフェーズへと移行しつつあるのが現状です。
2026年に向けて注目されているのは、
「新しいサウナ体験」ではなく、
「サウナ文化の深化と定着」。
その中で薬草サウナは、
- 地域性(ローカルな植物・風土)
- 物語性(伝統・民間療法・暮らしの知恵)
- 個別性(その日の体調や気分に合わせた植物選び)
といった要素を内包しながら、
よりパーソナルで、持続可能なウェルネス体験へと進化していきます。
つまり、2025年は「薬草サウナが再評価された年」、
そして2026年は、それが文化として根付き、各地で独自の形に育っていく年になると考えられます。
本記事では、こうした流れを踏まえながら、
寒い国々に根付く『薬草×サウナ文化』を紐解き、
現代の私たちの暮らしにどう取り入れられるのかを探っていきます。
【第2章】寒さとともに育まれた、薬草と蒸気の知恵― 世界の寒冷地域に見るサウナ文化の多様性
長い冬と厳しい寒さを生き抜くため、
人々は古くから「身体を芯から温める方法」を探し続けてきました。
その答えの一つが、蒸気と薬草を使った温浴文化です。
ここでは、既に紹介した北欧・ロシア(👉ブログ記事:秋の乾燥と寒さに備える、世界の伝統的な薬草と蒸気の力)以外の地域に目を向け、寒冷地ならではの薬草×サウナ文化を見ていきます。
<2-1> バルト三国(エストニア・ラトビア・リトアニア)
バルト地域のサウナ文化は、フィンランドとロシアの影響を受けながらも、
より自然信仰や民間療法の色が濃いのが特徴です。
代表的なのが、ジュニパー(ネズの木)。
針葉樹特有のシャープで清涼感のある香りは、
呼吸を深め、空気を浄化すると信じられてきました。
湿度の高いサウナで蒸されたジュニパーの香りは、
まるで森の中に包まれるような感覚を生み出します。
<2-2> アルプス地方(オーストリア・スイス・南ドイツ)
山岳地帯に広がるアルプス地方では、
サウナは回復と療養のための場所として発展しました。
ここで使われるのは、
松、モミ、スプルース、アルニカといった高山植物。
これらは筋肉疲労や関節ケアに良いとされ、
スキーや登山文化と密接に結びついています。
自然の厳しさと向き合う土地ならではの、実用性重視の薬草サウナです。
<2-3> アイスランド
火山と氷に囲まれたアイスランドでは、
地熱を利用したサウナや温浴文化が生活の一部となっています。
使用されるのは、
アンジェリカ(セイヨウトウキ)やタイムなど、
寒冷かつ過酷な環境でも育つ生命力の強い薬草。
地熱の蒸気と薬草の香りが合わさることで、
身体を温めるだけでなく、
自然のエネルギーそのものを取り込むような感覚が得られます。
👉【動画】アイスランドにおけるアンジェリカ(Angelica)の栽培と収穫
<2-4> シベリア・北方ロシア
ロシアのサウナ(バーニャ:Banya)文化は、地域によって使われる植物が大きく異なります。
ヨーロッパロシアでは白樺の枝を束ねた「ヴィーニク」が象徴的で、血行促進やリラックスを目的に使われてきました。
一方、シベリアのような極寒のタイガ地帯では、白樺よりも松・トウヒ・カラマツなどの針葉樹が豊富で、抗菌・防寒・呼吸器ケアを目的に、樹脂の香りを活かした蒸気浴が発達しました。
「白樺の爽やかな香り」と「針葉樹のスモーキーな芳香」はまったく異なる体験を生み、同じ「バーニャ:Banya」でも地域の森林資源によってスタイルが変わるのが興味深いですね。
【3章】アジア「寒冷地の薬草×蒸気文化」
<3-1> 中国・東北地方(黒龍江・吉林など)
中国の東北地方(黒竜江・吉林・遼寧)は冬の気温が−20℃を下回ることも珍しくない極寒地域。そのため、体を温めるための蒸し風呂文化が古くから発達しています。
◎汗蒸(ハンジョン:hàn zhēng)
黄土や石を温めた部屋に入り、遠赤外線で体を温め、発汗を促して血流改善や美容効果を狙う。部屋ごとに薬草の香りを変えます(よもぎ、菊花、松葉など)。東北地方では特に冬の健康維持として人気で、家族で行く習慣もあります。
- 起源は中国:百度百科によると、汗蒸は約600年の歴史を持つ中国発祥の熱療法。古代は貴族や皇室の特権的な養生法だった。
- 韓国との関係:朝鮮王朝時代に「汗蒸幕」として広まり、韓国式サウナ文化として定着。韓国では世宗大王が民衆の治療目的で広めたとされる。
- 現代中国:西部地域などでは「桑拿(サウナ)」と並んで「汗蒸」という言葉が使われ、健康ランド的な娯楽施設として親しまれている
◎薬蒸(ヤオジョン)
漢方薬や植物(よもぎ、当帰、紅花、松葉など)を煎じ、その蒸気や湯に身体を浸すスタイルで、地域によって使う薬草が異なる。端午節の「菖蒲湯」なども薬浴の一種。
- 体を芯から温め、冷えや疲労を和らげる目的
- 農村部では自宅で簡易的に行うこともある
- 中国古代からの習慣:殷代の甲骨文に「浴」の字が見られるほど古く、屈原の『楚辞』にもヨモギを用いた薬湯の記録がある。
- 座薫との関係:楊貴妃も愛用したとされる「座薫(植物蒸気を浴びる療法)」が中国で発展し、約600年前に朝鮮半島へ伝わり「よもぎ蒸し」として庶民に広まりました。
<3-2> モンゴル
遊牧文化が根付くモンゴルでも、
寒さ対策として蒸気浴と薬草が使われてきました。
アルテミシア(ヨモギ属)、タイム系の野草などを焚き、
テント状の空間で蒸気を浴びるスタイルは、
厳しい自然環境の中で身体を守るための知恵。
シンプルながら、自然との距離が極めて近いサウナ文化です。
<3-3> 韓国(北部・山間部)
韓国の薬草サウナ文化は、地域の自然と深く結びついています。 たとえば山林の多い地域では、松の葉を蒸して香りと成分を浴びる「松葉蒸」が伝統的に親しまれてきました。松葉の爽やかな香りにはリラックス効果があり、温熱と合わせて血行促進や疲労緩和を期待できます。 一方、韓国全土で広く行われているのが、よもぎや当帰など韓方薬草を使った蒸し風呂。産後ケアとして発展した下半身蒸し(座浴)から、薬草サウナ、チムジルバンの薬草ルームまで、地域や施設ごとに使われるハーブは大きく異なります。
🌿 松葉蒸(ソルイプチム)
韓国の山林で採れる松の葉を蒸気で温め、その香りと成分を全身に浴びる伝統的な蒸し療法。 松葉には、爽やかな樹脂系の香りとともに、以下のような働きがあるとされています。
- リラックス効果:松の香りは神経を落ち着かせ、ストレス緩和に役立つとされる
- 血行促進:温熱と松葉成分の相乗効果で体が温まりやすい
- 筋肉疲労の緩和:松葉浴は筋肉のこわばりを和らげる目的でも使われてきた
- 肌の調子を整える:松葉の成分は皮膚の回復を助けるとされ、韓国では美容目的でも人気
松葉蒸は、韓国の自然療法の中でも特に「森の力」を取り入れたスタイルで、香りの個性が強いのが特徴。
👉【動画】[サウナ]床暖房の部屋に松葉を敷いて温まる、薬草サウナ
寒冷地に共通する「薬草サウナ」の本質
地域も植物も異なりますが、
寒い国の薬草×蒸気文化には共通点があります。
それは、
**「自然の力を借りて、身体を守る」**という思想。
薬草サウナは、
贅沢なウェルネス体験ではなく、
もともとは生きるための生活文化でした。
2026年に向けて、この視点はますます重要になっていきます。