世界を旅する薬草 ― Eclipta thermalis(旱蓮草・ブリンガラージャ・タカサブロウ)

はじめに:世界を旅する薬草「Eclipta thermalis」

Eclipta thermalis(正確な学名:Eclipta prostrata、別名 Eclipta alba)は、キク科に属する薬草で、世界各地で古くから利用されてきました。国や地域によって名称や使用法が異なり、幅広い効能を持つユニークな植物です。

この薬草は、中国では「旱蓮草(カンレンソウ)」「墨旱莲(モクカンレン)」、インドでは「ブリンガラージャ(Bhringraj)」、日本では「タカサブロウ」、欧米では「False Daisy(偽ヒナギク)」と呼ばれています。

共通する効能として、肝腎の滋養、止血作用、白髪予防・育毛促進が挙げられます。ただし、各国で特に重視される用途には違いがあります。例えば、中国では白髪の黒染めや止血、インドでは育毛・白髪ケアの外用、日本では主に止血作用、欧米では肝機能改善や抗炎症作用が中心となっています。

ひとつの薬草が世界で何通りにも使われる。白髪ケアから肝機能改善まで――。

国・名称共通効能特に重視されている効能・用途
中国:旱蓮草・墨旱莲肝腎の滋養、止血、白髪予防特に白髪黒染めの民間療法、止血
インド:ブリンガラージャ育毛促進、白髪予防、肝機能改善特に育毛・白髪ケアの外用/オイル
日本:タカサブロウ止血、育毛、白髪予防(記録は限定的)止血が主(薬草利用の記録は少なめ)
欧米:False Daisy抗炎症、肝機能、創傷治癒ヘアケアより内用目的(肝臓や皮膚)

📌白髪染めとしての効果

Eclipta thermalis の茎を折ると黒い汁が出るため、古くは自然な黒色染料として用いられていました。しかし、化学染料のような即効性はなく、継続的な使用で徐々に髪に色を与えたり、健康を改善するタイプです。洗髪を繰り返すと色が落ちやすいため、定期的な使用が推奨されます。

📌髪への健康効果

  • 育毛促進:ウェデロラクトンという成分が含まれ、薄毛の原因となるホルモンの働きを抑え、髪の成長を助ける可能性があります。
  • 頭皮の健康維持:抗酸化作用により血流を改善し、毛根の健康をサポートします。
  • 白髪予防:メラニン色素の生成を助け、白髪の進行を遅らせる可能性があります。

📌使用方法

  • ヘアオイルとして頭皮に塗布すると、育毛効果が期待できます。
  • シャンプーやトリートメントに配合されている製品もあり、日常的に使うことで髪の健康を維持できます。

【1】中国=旱蓮草(カンレンソウ)

旱蓮草(カンレンソウ)は中国で古くから漢方薬として利用されており、湿地や田畑に生息しています。唐代の医学書『新修本草』にも記載され、止血や髪の健康維持に用いられてきました。

特に「墨旱莲(モクカンレン)」は白髪を黒く染める薬草として知られ、古代中国では「黒髪の王」とも呼ばれていました。唐代の記録には以下のような記述があります。

「旱莲草汁涂发眉,生速而繁」(墨旱莲の汁を髪や眉に塗ると、すぐに黒くなる)

という記述があります。

道教の「不老長寿」思想とも結びつき、長寿を願う薬草としても使われてきました。

<1-1>使用地域と民族

旱蓮草は中国各地で使用されていますが、特に農村部で伝統的な方法が受け継がれています。

  • ミャオ族(苗族):伝統的な薬草療法に取り入れ、髪のケアに使用。
  • トン族(侗族):煎じ液を髪に塗布し、黒髪を維持。
  • 広東省・雲南省の農村地域:現在でも白髪予防や育毛に活用。

都市部では使用が減少していますが、農村部では今も民間療法として活用されています。

<1-2> 効能

旱蓮草と墨旱莲は以下のような効能を持ちます。

  • 白髪染め:天然の黒色素が髪に浸透し、自然な色合いを実現。
  • 育毛促進:肝腎を補うことで髪の成長を促進。
  • 血行促進:頭皮環境を整え、健康的な髪を維持。
  • 止血作用:傷の治癒や体内の出血を抑える効果。
  • 肝腎の滋養:内臓機能の強化に寄与。

<1-3>旱蓮草(カンレンソウ)と墨旱莲(モクカンレン)

旱蓮草と墨旱莲はどちらも Eclipta thermalis(タカサブロウ) を指しますが、薬効に微妙な違いがあります。

📌薬効の違い

  • 旱蓮草:肝・腎の滋養、血を冷やして止血。主に 白髪、視力低下、歯のぐらつき などに使用。
  • 墨旱莲:同じく肝・腎の滋養、止血効果がありますが、特に めまい、耳鳴り、不眠 に適しています。

📌使用上の注意

  • 墨旱莲は性質が寒いため、虚寒体質の人や胃腸が弱い人 は避けた方がよいとされています。
  • 服用時は 油っこい・辛い食べ物を避ける と胃腸への負担を軽減できます。

<1-4>白髪染め&ヘアケアレシピ

特に 白髪の色を自然に黒くすること に重点を置いたレシピです。煎じ液の使用や、黒豆などの補助成分を加えることで、徐々に白髪を染める目的があります。

材料:

  • 旱蓮草(乾燥)10g
  • 黒豆20g
  • 水500ml

手順:

  1. 煎じて濃い液を作る。
  2. 冷ましてから髪に塗布する。
  3. 週2〜3回の使用を1ヶ月継続。

※髪に色素を定着させるため 日干し を推奨。

<1-5>黒髪維持と育毛のための民間療法

白髪染めの効果も期待できますが、主に 頭皮環境の改善や育毛促進 に重点を置いたレシピです。抗酸化作用や血流促進により、髪全体の健康を保ち、白髪を予防する効果があります。

作り方

  1. 新鮮または乾燥した墨旱莲の葉を採取。
  2. 葉をすり潰して黒色の汁を抽出。
  3. 水を加えて煮出し、濃い黒色の液体にする。
  4. 冷まして保存(冷蔵庫で約1週間)。

使い方

  • 髪に直接塗布し、30分放置後に洗い流す。
  • シャンプーに混ぜて使用すると白髪染め効果が高まる。
  • 週1〜2回の使用が効果的。

🔽動画を見る:墨旱莲

【2】インド:ブリンガラージャ

インドでは「ブリンガラージ(Bhringraj)」と呼ばれ、アーユルヴェーダで育毛促進・白髪予防のハーブ として広く利用されています。湿地や川沿いに生息し、古代インドから髪の健康を促進する薬草として親しまれてきました。

特に オイルとしての使用 が人気で、現在も多くの家庭で「ブリンガラージオイル」が常備されています。

ブリンガラージは 「ケシャ・ラージャ(髪の王)」 の異名を持ち、アーユルヴェーダ古典 『チャラカ・サンヒター』 にも登場します。特に ヴァータ(風)とピッタ(火)を鎮める 薬草とされ、髪の健康維持に重要な役割を果たします。

<2-1>効能

  • 育毛促進:毛根を強化し、髪の成長を促進。
  • 白髪予防:メラニン色素の生成を助け、白髪の進行を遅らせる可能性。
  • 頭皮の健康維持:抗酸化作用により血流を改善し、毛根の健康をサポート。

<2-2>ブリンガラージャヘアパックレシピ

材料:

  • ブリンガラージ粉末 大さじ2
  • アムラ粉 大さじ1
  • ぬるま湯 適量

作り方:

  1. ペースト状に混ぜる。
  2. 頭皮に塗布し 20分放置
  3. 洗い流す。

頻度:

  • 週1〜2回 の使用が推奨。

<2-2>ブリンガラージ・ヨーグルトヘアパック

材料

  • ブリンガラージパウダー 大さじ2
  • ヨーグルト 大さじ3

使い方

  1. 頭皮に塗布し 30分後に洗い流す
  2. 髪に潤いを与え、健康的な状態を維持。

【3】 日本:タカサブロウ

タカサブロウ(Eclipta thermalis)は、日本では北海道から九州の田んぼや小川 に自生するキク科の植物です。江戸時代までは 「田三郎草(タカサブロウ)」 の名で親しまれ、止血薬として利用されていました。奈良や静岡の一部地域では、乾燥葉を止血用に携帯する習慣 があったとされています。

また、葉や茎を折ると黒い汁が出るため、「墨斗草(ボクトソウ)」 とも呼ばれ、簡易の墨として使われたこともあるそうです。

※「おひたしとして食され、特に徳川家光が好んで食べていた」 というお話もあるとか・・・

<3-1>なぜ使われなくなったか?(考察と背景)

  1. 薬草文化の変遷 江戸時代には活用されていましたが、明治以降の西洋医学の普及市販薬の台頭 により、次第に廃れていきました。
  2. アメリカタカサブロウ(Eclipta alba)という帰化植物が増えたことで、タカサブロウの生息地が奪われたことも影響しているようです。
  3. 名称の混乱と研究不足 和名・漢名・学名の混在 により一般認知が進まず、研究も中国やインドに比べて乏しいのが現状です。

日本でも白髪染めの歴史は古く、日本最古の医学書『医心方』(平安時代)には、白髪を黒くする方法が記されていたり、江戸時代にも「都風俗化粧伝」に白髪対策が紹介されており、薬草や天然素材を使った染め方が行われていたようです。

江戸時代に「美玄香」という白髪染めが登場し、黒油(びんつけ油)を使って白髪を目立たなくする方法が広まっていました。また、武将の斎藤実盛が戦場で白髪を隠すために髪を染めたという逸話も有名です。

明治時代以降は化学染料を使った白髪染めが普及し、大正時代には市販の白髪染めが登場しています。

<3-2>効能

  • 白髪染め:天然の黒色素が髪に浸透し、自然な色合いを実現。
  • 育毛促進:毛根を強化し、髪の成長を促進。
  • 止血作用:傷の治癒や体内の出血を抑える効果。

<3-3>自家製ヘアトリートメントレシピ

材料

  • タカサブロウの葉・茎(新鮮なもの) ひとつかみ
  • 200ml
  • ココナッツオイル(またはオリーブオイル) 大さじ1
  • レモン汁(オプション) 小さじ1

作り方

  1. タカサブロウの葉と茎を細かく刻む。
  2. 鍋に水を入れ、刻んだタカサブロウを加えて 弱火で煮る(約15分)
  3. 煮汁が濃い緑色になったら火を止め、冷ます。
  4. 濾してしぼり汁を取り、ココナッツオイルを加えてよく混ぜる。
  5. 髪と頭皮に塗布し、30分ほど置いた後、ぬるま湯で洗い流す

ポイント

  • 冷蔵庫で1週間保存可能。
  • 週2〜3回の使用で髪の健康を促進。
  • レモン汁を加えると頭皮のクレンジング効果UP。

【4】欧米:False Daisy(偽ヒナギク)

False Daisy(偽ヒナギク)は、アメリカやヨーロッパの湿地や川沿いに自生し、主に抗炎症・抗酸化作用を持つハーブ として研究されています。伝統的な薬草として利用されているものの、ヘアケアとしての普及は限定的です。

欧米では、False Daisy は 肝機能改善や傷の治癒に重点が置かれ、髪の健康よりも 機能性ハーブ としての活用が進んでいます。西洋医学の観点では 「肝機能の保護作用」「抗酸化・抗炎症作用」 に注目が集まり、インドや中国の民間知識をもとに臨床試験が行われています。

しかし、一般市場では 「False Daisy」 の名称が馴染みにくく、商業展開では 「Bhringraj Extract」 などの名称で販売されることが多く、認知度が低い傾向があります。また、欧米のヘアケア市場では 化学的な製品が主流 であり、伝統的なハーブが広く普及していないことも、ヘアケア用途としての使用が限定的な理由の一つです。

<4-1>効能

  • 抗炎症作用:皮膚炎や創傷治癒に効果が期待される。
  • 肝機能改善:肝臓の健康維持に役立つとされる。
  • 傷の治癒促進:抗酸化作用により細胞修復を助ける。

<4-2>自家製ヘアケアレシピ

📌False Daisyオイル

材料

  • 乾燥した False Daisy の葉 適量
  • オリーブオイル 適量

作り方

  1. 乾燥した False Daisy の葉をオリーブオイルに漬け込み、数日間放置
  2. 頭皮に塗布し、30分ほど置いた後、洗い流す

📌False Daisyヘアトニック

材料

  • False Daisy の煎じ液 適量

使い方

  1. 煎じ液を頭皮に塗布し、軽くマッサージ
  2. 30分ほど置いた後、洗い流す。

まとめ:なぜ同じ植物がこれほど多彩に使われるのか?

Eclipta thermalisは、気候や文化、医療思想の違いによって、それぞれの国で 異なる用途 で活用されてきた薬草です。

  • 医学体系(漢方・アーユルヴェーダ・民間薬)による認識の差
  • 社会的ニーズ(髪の美しさ vs 健康維持)による強調点の変化
  • 歴史的・宗教的背景と植物の結びつき

これらの要素が絡み合い、同じ植物が多彩な形で活かされてきました。
Eclipta thermalisのような植物を再発見することは、
「現代の私たちの体や暮らし」に合った植物療法を見つけ直すことでもあります。

■注意事項

「鍼灸マッサージ師&エステティシャン」としての経験を生かし、美容と健康に役立つ情報をお届けしております。内容の正確性には細心の注意を払っていますが、誤りが含まれる可能性もございますのでご了承ください。また、当店では(指圧・オイルマッサージ・足ツボ)以外の施術を行っておりませんので、ご注意ください。

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