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【1】日本:ラジオ体操
日本人にとって、あまりにも身近な「ラジオ体操」。
学校の夏休み、地域の公園、職場の朝礼など、一度は「ラジオ体操第一」の音楽に合わせて体を動かしたことがある人も多いのではないでしょうか?
ところが、このラジオ体操は、もともと日本で生まれたアイデアだったわけではありません。
その発想の背景には、1920年代のアメリカで行われていた「ラジオを通じて国民に健康体操を広める!」という取り組みがありました。
海外から入ってきたアイデアを、日本はどのようにして「国民みんなの健康運動」へと発展させていったのでしょうか?
<1-1>アメリカの「ラジオ体操」がきっかけに
1920年代、ラジオは新しい情報メディアとして急速に広がり始めていました。
アメリカでは、生命保険会社が健康増進のための取り組みとして、ラジオを利用した体操を行っていました。
1925年には、メトロポリタン生命保険会社がラジオによる健康体操を開始。
この「ラジオから流れる体操に合わせて、多くの人が一緒に運動する」という仕組みに注目したのが、日本の逓信省簡易保険局でした。
当時の日本では、1916年に簡易生命保険事業が始まっており、保険事業と国民の健康づくりを結びつける取り組みが進められていました。
海外の保険事業を視察した簡易保険局の関係者は、アメリカなどで行われていた健康増進の取り組みを日本にも取り入れようと考えます。
<1-2>日本で「国民保健体操」が誕生
1927年には、簡易保険局内で「健康体操放送を開始せよ!」という提案が出されます。
そこで目指されたのは、「老若男女を問わず」、誰でも簡単にでき、屋内でも屋外でも行える体操です。
そして1928年、簡易保険局を中心に、日本放送協会や文部省などの協力を得て「国民保健体操」が制定されます。
同年11月1日、東京中央放送局から朝7時に放送が始まりました。
これが、現在の「ラジオ体操」につながる始まりです。
当時はまだ「ラジオ体操」という正式名称ではなく、「国民保健体操」と呼ばれていました。
ラジオから流れてくる音楽と号令に合わせて、全国の人が同じ体操をする。
新しいメディアであるラジオを使って、健康運動を家庭へ届けるという発想は、当時としては画期的なものでした。
<1-3>「みんなで体操する」文化へ
1928年当時、ラジオの普及率はまだ約3%でした。
そこで、ラジオ体操を屋外でみんなで行う「ラジオ体操の会」が各地で始まります。
1930年には東京・神田で、警察官が子どもたちを集めた「ラジオ体操の会」を始め、その後、こうした集団でのラジオ体操が全国へと広がっていきました。
ここからラジオ体操は、単に「ラジオを聞きながら家で行う体操」ではなく、
地域の人が集まり、同じ時間に、同じ動きをする運動
へと変化していきます。
<1-4>現在の「ラジオ体操第一・第二」はいつ生まれた?
実は、私たちが現在知っているラジオ体操は、1928年に始まった初代のものではありません。
初代ラジオ体操第一は1928年に始まり、1932年には青壮年向けの「旧ラジオ体操第二」も制定されました。
その後、戦後の1946年に新しいラジオ体操が作られましたが、わずか1年で終了。
改めて内容が作り直され、1951年に現在の「ラジオ体操第一」、翌1952年に「ラジオ体操第二」が制定されました。
現在でも、かんぽ生命、NHK、全国ラジオ体操連盟などが普及活動を続けています。1962年からは「1000万人ラジオ体操・みんなの体操祭」も行われており、ラジオ体操は今も日本の健康文化として受け継がれています。
【2】中国:太極拳
中国の公園を訪れると、朝早くから「太極拳」をする人々を見かけることがあります。
太極拳はもともと中国武術の一つですが、現在では武術としてだけでなく、健康維持や体力づくりのための運動として広く親しまれています。
太極拳は現在、中国国内だけでなく、世界各地で行われています。
日本でも公民館やスポーツ施設、地域のサークルなどで教室が開かれています。
海外では「Tai Chi」として知られ、武術としてだけでなく、健康やウェルネスを目的とした運動として紹介されることもあります。
<2-1>太極拳は「ゆっくりした体操」ではない?
太極拳というと、ゆっくり腕を動かしながら行う健康体操を思い浮かべますが、本来は中国武術の一つです。
相手との攻防を想定した動きを連続した型として行うもので、現在、健康運動として広く行われているものには、武術としての太極拳を健康づくりに適した形に整理したものもあります。
そのため、「太極拳=高齢者向けのゆっくりした体操」というわけではありません。
太極拳が健康運動として広く普及するうえで大きな役割を果たしたのが、1950年代に制定された「簡化24式太極拳」です。
それまで太極拳にはさまざまな流派や長い套路がありましたが、より多くの人が学びやすいように24の動作に整理されました。
こうして伝統武術を誰もが取り組みやすい形にすることで、太極拳は中国国内だけでなく、世界へ広がる健康運動の一つとなりました。
現在も中国政府が推進する「全民健身(全国民のフィットネス)」の中で、太極拳や健身気功などの伝統的な身体文化が活用されています。
🔽【動画】簡化24式太極拳
<2-2>中国にも「国民体操」がある
中国にも、日本のラジオ体操に似た「广播体操(ラジオ体操)」があります。
1951年に第一套广播体操が制定され、その後、第2套、第3套……と改訂されてきました。2011年には現在の第九套广播体操が発表されています。
しかも、中国では対象に合わせた体操も作られてきました。
中小学生向けには、年齢や学年に応じた广播体操があり、過去には「第七套广播体操」も広く知られていました。2008年の教育部資料でも、小学校と中学校で異なる广播体操が使われていたことが確認できます。
現在も学校では广播体操が行われており、大学などでも第九套广播体操が使われています。
日本のラジオ体操が「第一・第二」という比較的シンプルな体系なのに対し、中国では時代や対象に応じて、さまざまな广播体操が作られてきたのも特徴です。
🔽【動画】中国:第二套全国中学生广播体操
🔽【動画】中国:第六套手機廣播體操
コラム|中国には「目の体操」もある
中国の学校文化で、もう一つ興味深いのが「眼保健操(目の保健体操)」です。
これは音楽や号令に合わせて、目の周囲や顔のツボを指で刺激するもので、1960年代に始まり、全国の学校へ広がりました。
そして、これは過去の習慣ではありません。
2025年の教育部の通知でも、中小学校で午前・午後にそれぞれ1回、眼保健操を行うことが近視予防の取り組みとして明記されています。
🔽【動画】中国:眼保健操(目の保健体操)
【3】北朝鮮:律動体操
北朝鮮には、音楽に合わせて身体を動かす「律動体操(률동체조/류동체조)」があります。
1990年代に普及したもので、一般成人向けの「大衆律動体操」だけでなく、幼児・少年・高齢者など、年齢に合わせた律動体操もつくられました。
大衆律動体操は15の動作からなるエアロビクスのような体操で、歩く動作を基本に、曲げる・伸ばす・回すなどの動きを組み合わせています。高齢者向けには、1996年に「老人律動体操」もつくられました。
北朝鮮では、子どもから高齢者まで、それぞれの年代に合わせた体操を用意する形で、運動を日常生活に取り入れてきました。
🔽【動画】北朝鮮:小学生律動体操
🔽【動画】北朝鮮:一般成人向けの「大衆律動体操」
🔽【動画】北朝鮮:老人律動体操
【4】韓国:生活体育
韓国にも、かつて「国民体操(국민체조)」と呼ばれる体操があり、学校や職場などで広く行われました。
日本のラジオ体操とよく似た存在です。
現在は、一つの体操を全国民が行うスタイルから、運動不足の解消や健康寿命の延伸、生活の質の向上、地域での交流などを目的に、年齢や体力、生活スタイルに合わせて、それぞれが運動する「生活体育(생활체육)」へと広がっています。
日本でいう「生涯スポーツ」に近い考え方です。
🔽【動画】韓国:国民体操
【5】インド:ヨーガ
インドを代表する健康運動といえば、ヨーガです。
ヨーガは古くから続く身体・精神文化ですが、現代のインドでは学校教育にも取り入れられています。
インドの学校では、ヨーガを体育・健康教育の一部として学ぶだけでなく、朝の時間に行う学校もあります。
たとえば中央政府系のKendriya Vidyalayaでは、「Class I(第1学年)」からヨーガを教え、毎朝の朝礼で生徒と教職員がヨーガを行うことを日課としています。
内容も、単に身体を伸ばすだけではありません。
NCERTのカリキュラムでは、「Class VI(第6学年)」から、スーリヤ・ナマスカーラ、ターダーサナ、ヴリクシャーサナ、シャヴァーサナ、呼吸法、トラータカ瞑想などを学びます。「Class VII(第7学年)」になると、さらにカパーラバーティ、アヌローマ・ヴィローマ、バストリカーなどの呼吸法や瞑想も加わります。
このように、インドの学校で行われているヨーガは、ポーズだけを練習するものではありません。アーサナ(姿勢)・呼吸・瞑想を組み合わせ、身体と心を整える学習として扱われています。
ただし、インドには国・州・教育ボードによる違いがあり、すべての学校で同じように実施されているわけではありません。
また、学校教育に取り入れられている一方で、ヨーガはインド人全員の日常習慣というわけでもありません。
調査では、これまでにヨーガをした経験がある人は約35%で、約62%は「一度もしたことがない」と回答しています。週1回以上行っている人は13%でした。
国を代表する伝統文化であり、学校教育にも取り入れられているヨーガですが、実際の普及度にはかなり幅がある――というのが、現在のインドの実情です。
【6】タイ:ルーシーダットン
タイを代表する伝統的な健康運動の一つが、「ルーシーダットン(ฤๅษีดัดตน)」です。
「仙人の体操」とも呼ばれ、タイ伝統医学の中で受け継がれてきました。
現在、タイ保健省のタイ伝統医学・代替医療局では、ルーシーダットンから一般の人が実践しやすい「基本15ポーズ」を選び、健康増進や疾病予防のための「タイ式体操」として普及しています。
この15ポーズには、立ったり座ったり、横になったりしながら身体を伸ばす動きだけでなく、顔や手指を押したり揉んだりする動作も含まれています。呼吸を合わせながら、肩・首・背中・手足などを動かしていくのが特徴です。
普及方法も、タイらしい特徴があります。保健省が基本となる15ポーズを教材や動画にして発信し、病院などの保健施設で活用するほか、住民参加型のイベントでも実践されています。2013年には、保健省が全国の管轄病院に15ポーズを基本的な体操として取り入れるよう促し、2,500人以上が一斉にルーシーダットンを行うイベントも開催されました。