世界の花美容文化|花の香り・色・成分を生かす美容とケア

花は、眺めて楽しむだけのものではありません。

世界には、花を植物油に漬けたり、蒸留して香りを水に移したり、ペーストにして髪や肌に使ったりと、花そのものを美容や身体のケアに取り入れてきた文化があります。

タヒチではティアレをココナッツオイルに漬けたモノイオイル、バリではフランジパニの香りを生かしたスパ文化、インドではハイビスカスを使ったヘアケア、ペルシャや中東ではバラを蒸留したローズウォーター。

同じ「花を使う美容」でも、香りを楽しむのか、髪を整えるのか、肌を手入れするのかによって、その方法はさまざまです。

日本にも、椿油や紫根のように、植物の性質を生かして髪や肌を整えてきた植物美容があります。

今回は、世界各地で花や植物がどのように美容や身体のケアに取り入れられてきたのかをたどりながら、花の香りや色、植物の成分を暮らしに取り込む知恵を紹介します。

目次

・【1】タヒチ:ティアレ/モノイ
・【2】バリ:フランジパニ
・【3】インド:ハイビスカス
・【4】ペルシャ・中東:ローズウォーター
・【5】日本:椿油と紫根
・【6】コラム:アルニカ―花を油に漬けて身体をケアする

【1】タヒチ:ティアレをまとう「モノイ」の美容文化

世界の花美容で、まず紹介したいのがタヒチの白い花、ティアレです。

ティアレの花をココナッツオイルに浸してつくる「モノイ」は、タヒチを代表する美容オイル。肌や髪のケアに使われるほか、ティアレ特有の甘く濃厚な香りを身体にまとうためにも使われてきました。

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<1-1>花の香りを身体にまとう

モノイの大きな特徴は、ココナッツオイルにティアレの花を組み合わせること

ココナッツオイルが肌や髪を油分で保護する一方、ティアレはオイルに甘くクリーミーな花の香りを与えます。

そしてティアレは、香りを楽しむだけの花でもありません。タヒチの伝統薬学「Rā’au Tahiti」では重要な薬用植物のひとつとされ、花は傷や皮膚トラブル、打撲などの外用に用いられてきました。

つまりモノイには、

ココナッツオイルによる肌や髪のケア

ティアレの香り

ティアレを薬用植物として利用してきた知恵

が重なっています。

なかでも現代のモノイの大きな魅力となっているのが、ティアレ特有の濃厚な香り。肌や髪を整えながら、花の香りまで身につける――それがタヒチの花美容です。

なお、「Monoï de Tahiti(モノイ・ド・タヒチ)」は1992年に原産地呼称として認められ、フレンチポリネシア産のティアレとココナッツを使い、定められた製法でつくられたものだけがこの名称を名乗れます。

🔽【動画】Monoï de Tahiti(モノイ・ド・タヒチ)

【2】バリ:フランジパニの香りをまとう

バリを旅したことがある人なら、一度は目にしたことがあるかもしれません。

白や黄色の花びらを広げる、甘い香りのフランジパニ

インドネシアでは「ジュプン(Jepun)」と呼ばれ、バリの寺院や街角、ホテルの庭など、さまざまな場所で見かける身近な花です。

<2-1> 祈りの花から、香りの花へ

フランジパニ(frangipani flowers)は、単なる南国の観賞用植物ではありません。

バリ・ヒンドゥーの文化では、花は神々への供物に欠かせないもの。フランジパニも供花として使われ、寺院での儀礼や日々の祈りの中に登場します。

つまりバリでは、フランジパニ美しい花であると同時に、祈りのための花でもあるのです。

そして、その甘く印象的な香りは、宗教儀礼だけでなく、香料やお香などにも利用されてきました。

花の姿だけでなく、香りそのものがバリの暮らしに取り込まれていることが、フランジパニの大きな特徴です。

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<2-2> バリのスパで楽しむ「花の美容」

そんなフランジパニは、現代のバリのスパ文化にも登場します。

マッサージの前後に花を浮かべたフラワーバスを楽しんだり、フランジパニの香りを使ったボディオイルやバス用品が販売されたりと、花の香りを身体のケアと結びつける習慣が見られます。

温かい湯に花を浮かべ、甘い香りに包まれながら身体を休める。

あるいは、マッサージの後にフランジパニの香りを肌にまとわせる。

バリでは、花の香りを楽しみながら身体を整える時間が、現代のスパ文化の中にも受け継がれています。

なお、フランジパニは香料の抽出が難しい花で、現在販売されているフランジパニオイルなどには、フランジパニの香りを再現した香料を使った製品も多くあります。

バリのお土産店で見かける「Frangipani」の文字は、こうしたバリを代表する花の香りを楽しむための商品にも使われているのです。

🔽【動画】バリ島のスパ:フラワーバス

コラム|なぜプルメリアは「ハワイやバリの花」なの?

プルメリアは、実は中南米やカリブ海地域が原産。それなのに、日本では「ハワイ」や「バリ」の花というイメージが強いのはなぜでしょう?

ハワイのプルメリアは、1860年にドイツ人医師・植物学者のウィリアム・ヒルデブランドによって持ち込まれたとされています。温暖な気候によく適応し、やがてレイなどに使われるようになり、今ではハワイを象徴する花のひとつになりました。

一方、バリへの詳しい伝来時期や経路ははっきりしていません。ただ、インドネシアに渡ったプルメリアは「ジュプン」と呼ばれるようになり、バリでは寺院や供物に使われる花として定着しました。現在ではバリに自生する品種も多く、海外から導入された品種とともに多様なフランジパニが育てられています。

つまりプルメリアは、原産地から遠く離れたハワイやバリで、それぞれの文化に根付き、その土地を象徴する花になったのです。

※「プルメリア」は植物の属名に由来する名前、「フランジパニ」は英語などで広く使われている一般名で、日本ではどちらも使われています。

【3】インド:ハイビスカスで髪を整える

鮮やかな赤い花を咲かせるハイビスカスは、南国を代表する花のひとつ。

インドでは、観賞用として楽しむだけでなく、髪のケアに使う植物としても親しまれてきました。

👉関連記事:世界の“夏の髪ダメージケア”――植物オイルで守る髪の文化

<3-1> 花をペーストやオイルにして髪へ

インドでは、ハイビスカスの花や葉をすりつぶしてペーストにし、髪や頭皮のケアに使う方法が伝えられています。また、花や葉を植物油に浸して、ヘアオイルとして使うこともあります。

ハイビスカスが髪のケアに使われてきた理由のひとつが、「花や葉に含まれる粘液質(ムチレージ)」です。

粘液質には水分を抱え込む性質があり、髪に使うことで、乾燥した髪をしっとりとなめらかに整える目的で利用されてきました。

さらに、ハイビスカスには植物由来のポリフェノール類なども含まれています。

そのため、ハイビスカスは単に「赤くてきれいな花」だから髪に使うのではなく、花や葉に含まれる成分を、髪を整えるために利用してきた植物なのです。

花をペーストにして髪に塗る方法や、オイルに浸してヘアオイルにする方法など、インドではハイビスカスを身近な植物美容に取り入れてきました。

🔽【動画】Hibiscus Hair Rinse

【4】ペルシャ・中東:ローズを水に閉じ込める

バラは世界中で愛されてきた花ですが、花を美容に使う文化という点で特に重要なのが、ペルシャから中東、インドへと広がったローズウォーターです。

ペルシャでは古くからバラの栽培と蒸留が行われ、花びらからローズウォーターがつくられてきました。香りを楽しむだけでなく、顔や身体を清めたり、肌の手入れに使ったりするための水として利用されてきたのです。

この習慣は現在も続いており、中東や南アジアではローズウォーターが化粧水などのスキンケアに使われています。

🔽【動画】ローズウォーター(ROSE WATER)

<4-1> なぜバラを使うの?

ローズが美容に使われてきた大きな理由のひとつは、花そのものに豊かな芳香成分が含まれていることです。

バラの香りは古くから香料として珍重され、花から芳香成分を取り出して利用する技術が発達しました。

また、ローズウォーターは水をベースとしているため、オイルのような油性感がなく、肌に使いやすいのも特徴です。

現在も、洗顔後の肌に使ったり、顔や身体に香りをまとわせたりするなど、日常のスキンケアに取り入れられています。

コラム|「漬ける」と「蒸留」は何が違う?

花を美容に使う方法には、今回紹介しているモノイオイルのように植物油に花を漬け込む方法があります。

花を油に浸して時間を置くと、花に含まれる油になじみやすい成分や香りが油へ移っていきます。

一方、ローズウォーターをつくる蒸留では、花と水を加熱します。

花から出た香りの成分を水蒸気と一緒に取り出し、それを冷やして液体に戻すことで、香りを含んだ水が得られます。

つまり、

漬ける → 花の成分や香りを油へ移す
蒸留する → 花の芳香成分を水蒸気とともに取り出し、水に戻す

という違いがあります。

同じ「花の香りを取り出す」方法でも、使う液体や抽出の仕組みが違うため、できあがるものの性質も変わります。

👉【関連記事】イラン|ファルデ(2000年以上続く「香りで涼を味わう」文化)

【5】日本:椿油と紫根に見る植物美容

日本にも、植物を髪や肌の手入れに取り入れてきた文化があります。

代表的なのが椿椿の種子から搾った油は、古くから髪の手入れに使われてきました。

椿油は、オレイン酸を多く含む植物油。髪になじみやすく、乾燥した髪に油分を補って、髪をしっとりと整え、ツヤを与えるために利用されてきました。

一方、植物の成分を油に取り入れて使う例として興味深いのが、「紫根(しこん)」です。

紫根はムラサキの根を乾燥させたもので、古くから染料や薬用植物として利用されてきました。根には紫色の色素であるシコニンやアルカンニンなどが含まれています。

紫根は、古くからやけどや傷、肌荒れなどの皮膚トラブルに外用する薬草として使われてきました。こうした伝統的な利用から、紫根を植物油に浸してつくる紫根油も、乾燥や肌荒れなどの肌の手入れに用いられてきました。

紫根油の特徴は、なんといってもその赤紫色。紫根に含まれる色素が油に移ることで、深い赤紫色になります。

つまり紫根は、色を生み出す植物であると同時に、肌の手入れに使われてきた薬草。その両方の性質が、現在の紫根を使った美容にもつながっています。

詳しくは「インフューズドオイルとは?」でも紹介しています。

👉関連記事:紫根(シコン)とは?――紫色の染料から薬草、美容オイルまで

🔽【動画】自家製紫根油

【6】ヨーロッパ:アルニカを油に浸す身体のケア

黄色い花を咲かせるアルニカは、ヨーロッパの山岳地域で古くから利用されてきた薬草です。

特にドイツやオーストリアなどでは、花を植物油に浸したアルニカオイルが、身体の外用ケアに使われてきました。

<6-1> 山の暮らしから生まれた薬草オイル

アルニカが使われてきたのは、美容のためというより、打撲や筋肉痛、捻挫など、身体を使う暮らしの中で起こる不調のケアが中心です。

山仕事や農作業などで身体を酷使する人々にとって、アルニカは身近な薬草のひとつでした。摘んだ花を油に浸し、患部に塗るための外用剤として利用してきた地域もあります。

現在もアルニカを配合したクリームやジェル、オイルなどが販売されており、スポーツ後の身体のケアなどに利用されています。

アルニカは、今回紹介してきた花とは少し性格が異なります。

ティアレやフランジパニのように香りを楽しむのではなく、花を植物油に取り込み、身体のケアに役立てる

花を美容だけに使うのではなく、暮らしの中の薬草として利用してきた例として、アルニカも興味深い存在です。

🔽【動画】アルニカを採取して、アルニカオイルを作りましょう!

まとめ

花を美容に使う方法は、ひとつではありません。

ティアレはココナッツオイルに香りを移し、フランジパニはバリのスパや香りの文化に取り入れられ、ハイビスカスは髪のケアに使われてきました。ローズは花を蒸留してローズウォーターにし、日本では椿油や紫根が髪や肌の手入れに利用されています。

そこには、花の香りを楽しむだけでなく、その植物が持つ性質を見極め、油や水、ペーストなど使いやすい形にして身体に取り入れるという発想があります。

そして、同じ植物でも地域によって使い方は変わります。美しい香りをまとう花もあれば、髪を整える花、肌の手入れに使われる花、身体のケアを支える薬草になる花もあります。

花は、ただ美しく咲いているだけではない。

その土地の人々が花の香りや色、性質を見つめ、暮らしの中で役立ててきたこと。それもまた、世界各地に残る植物美容文化なのです。

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